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労働事件簿:雑誌「常葉学園事件」第1294回 (前半)
―公益通報の真実相当性はどこまで求められるのか
文・西澤美和子(弁護士)
1 はじめに
「Mさんにとうとう懲戒解雇通知が出ました。」との連絡が東京の宋昌錫弁護士から当事務所に入ったのは,平成27年2月のことでした。恐れていた事態が現実になってしまったのです。Mさんが懲戒解雇されるに至る経緯をお話するには,平成21年まで遡らなければなりません。Mさんは,まさに,十年戦争といえる過酷な道を辿ってきたのです。
Mさんは,学校法人常葉大学(旧常葉学園。以下「学園」)が運営する常葉大学短期大学部(以下「短大」)の准教授である40代の男性です。学園は,静岡県内で幼稚園から大学院までを広く経営しており,県内では最大規模の名の知れた学校法人です。
冒頭の懲戒解雇通知が出るまでの間は,宋弁護士が代理人に就き,懲戒手続きにおける弁明等をサポートされていました。当事務所でも相談を受けていたのですが,懲戒解雇通知が交付されたことで,いよいよ法的手段が必要となり,静岡の弁護士も代理人に加わることになりました。弁護団は,宋先生に加え,西ヶ谷知成弁護士,白山聖浩弁護士,私の4名です。
本件は,事案が非常に複雑ですので,4つのキーとなる出来事,「①補助金問題,②平成22年6月の強要行為,③平成24年8月の刑事告訴,④平成24年12月の公益通報」があることを念頭にお読みいただければと思います。
2 補助金問題
Mさんが,初めに学園で「おかしい」と思う出来事に出会ったのは,平成14~16年頃のことでした。当時の学生から,コンピューターの授業の担当とされているK教授を授業で見たことがないという話を聴いたのです。授業は,代わりに助手が一人で行っているようでした。教授が授業を行っていないとすれば,文部科学省から補助金をうける要件を満たさなくなります。Mさんは,当時,学内の教務委員として,補助金申請の元となる資料を作成する仕事をしており,自分のしていることが補助金の不正受給につながっているのではないかとの不安を抱きました。しかし,親族経営の色が濃い学園内で,理事長の親族であるK教授を糾弾することは,赴任したばかりのMさんには躊躇われました。その後,K教授は,系列の学校に異動となりましたが,この問題はMさんの心の中に燻りつづけていました。
ところが,平成21年に,K教授が再び異動で短大に戻ってくるとの話が持ち上がったのです。Mさんは,二度と疑わしい行為に荷担したくないと思い,担当職員に対して,「K教授が自分で授業をしないのであれば,補助金関係の資料は作成しない」ということを告げました。また,K教授の補助金問題について独自に調査を始めました。
Mさんの周りの雲行きが怪しくなったのは,この頃からです。あるとき,Mさんは,学園の音楽祭で割り振られた仕事の集合時間に遅刻をしてしまいました。このことを,補助金問題の張本人であるK教授らから多数の教職員の面前で,何度も厳しく叱責されたのです。Mさんの人格を否定するような発言(*「人間のクズ」・・補足)もあり,Mさんはうつ状態となってしまいました。
Mさんは,上司の叱責をパワハラとして,学内のハラスメント委員会に申し立てました。そして,補助金の問題と音楽祭での過剰な公開叱責は関連しているのではないかと考え,ハラスメント委員会の調査に対して,K教授の補助金不正受給について問題意識を持っている旨の報告をしました。また,平成22年5月には,ハラスメント防止のポスターを学内に掲示するよう依頼する手紙を学園理事長及び短大学長に出しました。
3 強要行為
決定的な出来事が起きたのは,理事長と学長に手紙を出した「直後」です。ある日,Mさんの研究室を「学園の危機管理担当」を名乗る男性(O氏)が突然訪ねてきました。Mさんと全く面識のないその男性は,「元警察官」であることを告げ,「暴力団と,僕の場合は,政治家,あと公務員を専門にやっている人間だもんで。それひとすじでやってきている。いろんな面じゃ顔は利くと思うからね。」などと,政治家や暴力団にコネクションがあることを伝えてきました。また,Mさんがパワハラの問題について,ハラスメント委員会の委員長に何度もメールを送ったことで,委員長が体調を崩したとして,メールを出すことが傷害罪にあたるなどの話をしてきました。Mさんは,元警察官で暴力団ともコネクションがあるという人物から,自らの行為が犯罪になるなどということを告げられ,恐ろしくなると同時に,理事長や学長がO氏を派遣して,自分の行動を押さえ込もうとしていると感じました。Mさんは,O氏の行為について,労働局の指導なども通じて,理事長や学長に抗議しましたが,取り合われることはなく,むしろ,O氏の行為を正当視する発言があったり、O氏が昇進するほどでした。
Mさんが学園に対する不信感をますます強めていくなか,Mさんは,系列の高校の野球部でおきたいじめ事件への対応にもO氏が関係しており,O氏によりいじめ事件が隠蔽されようとした旨の報道に接します。Mさんは,自分だけでなく,ほかにもO氏が関与して強引な解決を迫られた当事者がいることを知って衝撃を受け,学園が組織的な隠ぺい体質を有していると考えるようになりました。
4 刑事告訴
そこで,Mさんは,O氏,理事長及び学長を強要罪で刑事告訴するという行動に出ました。これが後に,「虚偽の告訴である」として懲戒の理由とされたのです。
Mさんは,検察庁に証拠(O氏との会話の録音)を示した上で,検察事務官との綿密な打ち合わせを経て告訴を行いました。検察事務官も,O氏との会話内容を把握した上で,積極的に告訴状の書き方などをアドバイスしてくれましたので,Mさんは,よもやこれが虚偽告訴の誹りをうけることとなろうとは思いもしていませんでした。(後半は今後検討)
後半…(危機管理担当の前職とは?その言動やその後の学園の驚くべき対応とは?、理事長らも容認してやっている組織的なもみ消しではないかと内部告発者が考えた理由とは?「労働法律旬報第1894号」2017年8月25日発売)http://www.junposha.com/book/b324649.html
常葉大学短大部補助金問題通報に関する当時の新聞、テレビ報道(抜粋)TBS系列 2013年SBS
教授は授業には出ていないと自ら証言。
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